協会誌「大地」No48

動態観測データに基づく圧密変形解析パラメータの設定事例

川崎地質(株)北日本支太田 史朗

川崎地質(株)九州支社松下 宏壱

1.はじめに

青森県津軽地方で先頃開通した浪岡五所川原道路の一部盛土区間では、軟弱地盤の変位が近接する送電線鉄塔に及ぶのを防止するため、変形解析による影響予測と予測に基づく対策工が施工されている。本報告では、このうち、変形解析のパラメータ設定に動態観測データを活用した事例について紹介するものである。

2.軟弱地盤を対象とした変形解析

地盤を対象とした有限要素法(FEM)による変形解析には、地盤を弾性体と見なし荷重に応じた一義的な変形量を求める線形弾性解析と、地盤を弾塑性体とし土の降伏後における塑性変形をも表現出来る弾塑性解析がある。

軟弱地盤を対象として変形解析を実施する場合は、土の軟化(塑性化)や硬化(強度増加)を考慮出来る後者を用いるのが適切であり、特に、施工速度や排水条件に応じて刻々と変化する軟弱地盤の変形挙動を表現し、緩速施工やバーチカルドレーン工法の効果を適切に見込むためには、有効応力法による弾(粘)塑性解析(土−水連成解析)を行う必要がある。

軟弱地盤を対象とした、有効応力法による弾(粘)塑性解析は、圧密変形解析とも呼ばれ「圧密変形・せん断変形(ダイレイタンシー)・塑性変形」といった土骨格の挙動を、構成式と呼ばれる数式で近似する。代表的な構成式には、粘性土を対象としたCam-clayモデルや関口太田モデルがある。本検討で採用した関口・太田モデルはCam-clay系のモデルであり、自然堆積(Ko)状態にある土の挙動を表現できるところが特徴である。

3.地盤調査

圧密変形解析モデルの精度向上のため、三成分コーン試験を行い砂の薄層分布を詳細に把握し、連続する砂層については、排水層としてモデルに反映した。

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図−1 鉄塔近接箇所の地質断面図

4.地盤物性値の設定

「関口・太田モデル」を用いた解析を行う際は、ポアソン比ν、静止土圧係数k0、などの地盤中の応力状態を表現するパラメータや、圧縮指数λ、膨潤指数κ、限界応力比M、ダイレイタンシー係数D、二次圧縮指数α、初期体積ひずみ速度V0などの土の圧密・変形を表現するパラメータなどの他、土の間隙水圧の挙動を左右する初期透水係数K0、透水係数の非線形性λkなど地盤の透水性パラメータを設定する必要がある。

これらの中で、一般に、現場との誤差が大きいとされるのは、透水係数(圧密係数Cv)であり、特に、腐植土では、現場Cv/室内Cvが数十倍1)に至ることもある。

その結果、室内試験値に基づく変形解析値は、圧密に伴う強度増加量を過小に見積もった、過大なせん断(塑性)変形量を示す傾向となることから、本業務では、透水係数の補正を行うことで、精度向上を図るものとした。

4.1現場透水性(圧密係数Cv)の設定

実地盤の透水性を圧密係数Cvを媒体として評価し、解析に用いる透水係数に反映させるものとした。

実地盤でのCv値は、試験施工により層別の値を確認するのが理想であるが、当該地では試験施工を行う時間的余裕がなかったため、近隣工事における動態観測データを分析して、土質毎の傾向を把握するものとした。

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図−2 圧密層厚と現場Cv/室内Cv比(室内Cv値は平均増加応力P0+Δp/2に対する値)

図―2は、動態観測結果から逆算した現場Cv値と、近傍の事前調査で求めた室内圧密試験によるCv値の比(現場Cv/室内Cv)をとり、圧密層厚を媒体として整理したものである。図より、現場Cv値は、室内Cv値の1〜9倍の値を示し、圧密層厚と比例関係にあることが判明した(図中点線は、土質毎に相関下限ラインを示す)。

このことは、圧密層における実地盤の透水性が、水平方向の高透水性(土の堆積面に起因する異方性)や、サンドシームの挟在の影響を受けることを示唆したものであり、特に腐植土層でその傾向が顕著と判断される。

以上を踏まえ、解析に用いる透水係数kは、下式k=γw×Cv×mv(Cv値は各層の室内試験値)に、圧密層厚に対応した補正係数α(=現場Cv/室内Cv、)を乗じて設定した(体積圧縮係数mvは、図―5に示すように実測値と室内試験値の相違が小さいと考えられるため、pcに対応する室内試験値を適用した)。

なお、有機質粘土(黒泥)については、現場/室内比が全体に小さいことから補正値は2倍を上限とし、更に、荷重の増加によって透水係数kが低下する非線形性(圧密係数Cvの傾き)が顕著であるため、下式によって、その影響を考慮するものとした2)。

k=k0exp{(e−e0)/λk}

λkは圧密試験による土の間隙比eと透水係数kの関係をe−logkグラフとして整理して、相関式の傾きCkを求めた上で、λk=0.434Ckの関係式より求めることが出来る。その一例を図−3に示した。

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図−3 e−logkの集積図

4.2強度定数の設定

「関口・太田モデル」による強度定数は、土のせん断挙動を、応力状態で変化するダイレイタンシー特性で表現するもので、下式で推定するのが一般的である3)。

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上式のうち、圧縮指数λ、間隙比e0は圧密試験から求まり、膨潤指数κについては、試験誤差が大きいため、経験的にκ=0.1〜0.2λとして設定する。

限界応力比Mについては、有効応力表示の内部摩擦角φ'を推定した上で次式より推定する。

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有効応力表示のΦ'を塑性指数から求めると国内の粘性土では過小値を示すことが多いと指摘されており、圧密非排水三軸圧縮試験(CU)にて算出することが望ましいとされる。本事例では、有機質土では、強熱減量値Liとの相関4)を利用するのが適切と考え、内部摩擦角φ'を、下式により算定した。

(φ'.φl)l=0.4(Li+72)

なお、近年の研究事例5)では、内部摩擦角φ'と強熱減量値Liとの相関関係として下式などが示されている。

φ'=0.19×Li(%)

5.影響予測結果

5.1 解析モデルの構築

5.1.1 解析モデルの評価

補正した地盤の圧密定数Cvを一次元の沈下解析モデルに反映し、一次元圧密計算結果と実測データに基づく圧密度(盛土立上り時)を比較した結果、当然ではあるが、良く一致する結果を得た。

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図−4 計算圧密度と実測圧密度の比較結果

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図−5 計算沈下量と実測沈下量の比較結果

鉄塔近接箇所において、Cv補正後の1次元圧密計算とFEM解析結果による圧密度を比較した結果、よく一致する結果が得られたため、解析モデルを確定した。

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図−6 鉄塔近接箇所の計算圧密曲線

5.1.2解析領域の修正

地盤を連続体と見なすFEM解析では、側方変位の影響範囲が実地盤よりも広く、変位量も大きく求められる傾向にあることが、既往の解析事例などでよく指摘されている6)。浅学の私の知る限りでは、これを理論的に適切に修正する方法(構成式の存在も含めて)は、今のところ一般化されていないようであるが、今回の解析では、実務的に割り切り、解析領域を実際の側方変位の影響範囲に制限する方法をとった。

付近の動態観測結果によると、緩速施工において地表面の側方変位は、盛土法尻から軟弱層厚の2倍以内で収束していることから、この結果を解析領域の設定に反映させた。模式的に表すと以下のとおりである。

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図−7 解析領域・境界条件の模式図

なお、鉄塔基礎であるφ300mmのPHC杭は、解析上ビーム要素としてモデル化を行った。

5.2影響予測結果

影響予測に先立ち、鉄塔の変位許容値を鉄塔規模と既往の施工事例を参考にして、以下のように定めた7)。

なお、無処理地盤の変形解析の結果、水平不同変位が50mmとなり対策を要すると結論された。なお、この値は、道路土工指針-簡便法8)の予測値に比し6割の値であり、圧密に伴う強度増加が適切に評価されたと解釈された。

表−1 無処理地盤における側方変位解析結果

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5.3対策工法の検討

5.3.1検討対策工の選定

変位防止対策工は、以下の工法について比較検討を行い、経済性と施工性を勘案して最適工法を選定した。

  1. 矢板工法(バーチカルドレーン 併用)
  2. バーチカルドレーン工法
  3. コンパクションパイル工法
  4.  深層混合処理工法
  5. バーチカルドレーン+深層混合処理工法

5.3.2対策工法の検討結果

変形解析において地盤の強度増加を適切に考慮することで、変形抑止対策としてのバーチカルドレーン工法の効果を見込むことが出来、安全・確実な施工を図るための対策費用の低減に大きく貢献した。

なお、ドレーン単独では許容変位量を満足出来ないと予測されたため、3列の深層混合処理工法を法尻に計画し、確実な変位抑制を図る方針とした。それでも、変形対策として一般的な深層混合処理の単独工法に比して、3割以上の費用削減となることが試算された。

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図−8対策工法の概要図

6.おわりに

泥炭性地盤では、実地盤での透水係数が室内試験値に比して大きいことが知られており、圧密変形解析に使用する透水係数も、適切に補正する必要がある6)。

泥炭性地盤では、実地盤での透水係数が室内試験値に比して大きいことが知られており、圧密変形解析に使用する透水係数も、適切に補正する必要がある6)。

本報告は、現場と室内の圧密係数Cv(透水係数)の相違に着目した透水係数の補正を行い良好な結果を得た。

今後は、荷重毎のCv値を整理し、透水係数の非線形性の実態評価を試みる所存である。また、圧密変形解析の性能設計への応用やライフザイケルコストの低減に活用すべく努力したい8)。最後になりますが、本検討にあたり、国土交通省東北地方整備局青森河川国道事務所の関係各位に多くのご指導を賜りました。ここに記して深謝致します。

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