協会誌「大地」No48

日本応用地質学会東北支部代表幹事
国際航業株式会社
高見 智之

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日本応用地質学会東北支部活動報告
現地見学会(9月28・29日)
応用地形学講習会(11月16日)

1.はじめに

日本応用地質学会東北支部では、会員および賛助会各社の技術研鑽と、学会活動を通じた社会貢献をめざして、活発な活動を続けています。支部活動として平成19年9月に現地見学会、11月に応用地形学講習会を実施しました。講習会は初めての試みとして日本地すべり学会東北支部と共催とし、学会支部間の連携を深めました。さらに、10月にはソウルで開催されたIAEGアジア地域シンポジウムに支部会員が多数参加して東北支部活動の発表を行いました。地域や領域にとらわれず、東北支部の会員や賛助会各社の発展を目指して活動しています。

2.現地見学会

(1)秋田大学鉱業博物館

あいにくの雨でしたが、館内の貴重な資料や標本を時間をかけて見学しました。多種多様な鉱物や鉱石だけでなく、鉱山の採掘法、ボーリング調査や物理探査の歴史を見ることができました。この博物館は卒業生や大学関係者をはじめとする関係者からの寄付で成り立ってきたとお聞きしました。

展示品を通じて資源開発にかけた先人の情熱をかいま見ることができました。

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写真1 鉱業博物館入口正面の瀝青炭の標本

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写真2懐かしい探査機器

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写真3地熱井スケール標本

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写真4ソーラーカー秋田大学号

(2)講演

秋田大学の佐藤時幸先生から、博物館の教室で「微化石から探る地下資源−古海洋と石油の奇妙な関係−」と題した講義を受けました。わかりやすいスライドと説明で、大陸の配置と海洋の大循環、気候変動と堆積物、無酸素環境と石油の関係など、最近の研究成果を基に説明をいただいた。大変興味深い内容であり、近年の研究の急速な進歩に認識を新たにさせられました。

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写真5 佐藤時幸先生の講義風景

(3)生鼻崎

小雨のぱらつく中、生鼻崎第2トンネルと周辺斜面の地すべり対策の現地を見学しました。説明は、調査・設計を担当された正木氏(川崎地質)、鈴木氏(奥山ボーリング)らからあり、周辺地域の地形地質や地質調査資料、トンネル施工記録などの資料をいただきました。

トンネルは北浦層のシルト岩、脇本層の砂岩シルト岩互層からなり、低固結〜未固結含水地山の問題点をさまざまな工法(フォアパイリング、リングカット、鏡吹付、さぐり孔など)を駆使して無事施工を終えたとのことでした。

地すべり対策は、層理面の発達した新第三紀層の流れ盤に起因する風化岩地すべりに対して、グラウンドアンカー工を施工した流れを説明していただきました。

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写真6 生鼻崎第2トンネル付近の脇本層

(4)鵜崎海岸

女川層分布地域の鵜崎海岸では、ニシンの化石がとれるという話で、海岸の礫をめくって化石探しに興じました。

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写真7ニシン?魚類化石を発見

(5)八望台

夕暮れの中、八望台から一の目潟、二の目潟、三の目潟、戸賀湾など地形観察を行いました。このころはすでに雨は上がり、厚い雲の隙間から日本海に沈む夕日がついに現れました。

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写真8一の目潟と戸賀湾

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写真9執念の夕日

(6)トラバーチン

二日目の朝、男鹿温泉周辺に分布するトラバーチン(石灰質温泉沈殿物)を観察しました。トラバーチンは活断層とされる湯本断層の断層崖の基部の段丘面に堆積していることから、段丘形成後に断層運動があり、その活動中ないし活動後に温泉が湧出し、トラバーチンが堆積したとされています(古橋他、2006)。湯本断層は宿舎の真下に位置するらしいが変位地形の延長を追うことは難しい。

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写真10トラバーチンの露頭。樹木のインプレッションと思われるパイプが観察される。

(7)かぶき岩

大口健志先生の案内で、門前層の露出する海食台を観察しました。門前層は溶岩流として流動した構造が見られ、パホイホイ溶岩に見られる「tubesystem」や「pillowlobe」などの独特の形態を観察しました。ローブや気泡の伸長方向から、溶岩流の流動方向を判定する方法を教えていただきました。先生の話によれば門前層の火山岩類は東から西に流れ、東側では陸上相で西側で水中堆積相があるそうです。

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写真11溶岩チューブのフローフロント

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写真12「象の鼻」と名付けられた溶岩流動構造

(8)館山崎

館山崎付近には台島層の凝灰岩類が分布する。「グリーンタフ」と呼ばれるようになった由来の緑色の露岩が連続する。大口先生によると溶結凝灰岩の諸相が見られ、安山岩岩塊などの巨大ブロックを含む。カルデラ壁の崩壊が想定されています。大口先生の最新のデータに基づき、露頭の観察方法や留意点などを教授頂きました。

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写真13大口先生の具体的な説明に聞き入る

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写真14凝灰岩層に包有される巨大ブロック

(9)新第三紀模式層序

模式地として知られている男鹿半島の第三紀層の地質層序が再検討されています。門前層は放射年代から古第三紀になり、また火山層序学的検討から門前層〜台島層の区分と分布の見直しが進められています。

(10)総括

参加者には秋田大学出身者も多く、先生の新しい研究成果の説明を聞きながら思わず直立不動になる人がいました。参加者はバス車中や夜の語らいの中で、地質学のおもしろさと重要性に対する思いを新たにしました。準備を担当された内海実幹事(基礎地盤)や石井英二氏(ジオテック)ほかに感謝します。

3.応用地形学講習会

今年は「地形と応用地質学」というテーマを持っていました。本部の応用地形学研究小委員会のまとめにより出版された図書をテキストに、講習会を開催しました。応用地形学は、地すべり学会とも関連が深い内容であり、東北支部として互いに連携を進める観点からも共催として企画運営を行いました。

  1. 地形判読技術とその歴史(向山栄 氏)
  2. マスムーブメントと岩盤の緩み(上野将司 氏)
  3. 地すべりと誤読されやすい地形(鈴木隆介 氏)
  4. 低地の微地形と活断層(八木浩司 氏)
  5. 空中写真判読による地すべり危険度評価(濱崎英作 氏)
  6. 地形発達から考える斜面防災対策(檜垣大助 氏)

講習は、テキストとした図書を中心として進められたが、各講師の資料として実体写真の補足資料や、スライドで実体視ができるような工夫がなされるなど、わかりやすい解説をいただきました。また、実際の業務の中で苦労された事例など貴重な話を聞くことができました。

予想を大きく上回る参加者に来ていただき、地形に関して注目度が高いことを再認識しました。終了後の受講者アンケート結果は好評であり、さらに具体的な演習を期待する声が多くよせられました。

なお、会場が狭く受付やCPD証明書発行に手間取ったり、会場後方ではスライドが見えにくかったことなどを、この場を借りてお詫びします。

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写真15講習会会場風景

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写真16鈴木隆介先生の講演風景

4.その他

(1)IAEGアジアシンポジウム

平成19年10月16−19日に行われた「第6回アジア地域シンポジウム“応用地質学におけるジオハザード”」に東北支部から多くの参加がありました。支部活動の発表として、橋本修一副支部長により、「地震防災における日本応用地質学会の社会貢献」と題して講演がありました。これは、東北支部の3ヶ年にわたって実施した一般向けの地震防災シンポジウムの活動に関する講演でした。

このほか支部会員による発表は今野隆彦氏、山本佑介氏らの計3編の講演が行われました。

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写真17会場となったソウル大学の
コンベンションセンター

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写真18講演する橋本副支部長

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写真19今野隆彦氏の講演

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写真20山本佑介本氏の講演

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写真21井上会長、茶石国際委員長と
東北支部からの参加者。

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写真22フィールドトリップで見学した
SOYANGRIVERダム

5.今後の予定

日本応用地質学会東北支部では、5月に支部総会・特別講演、7月に支部研究発表会、9月に支部現地見学会を予定しております。現地見学会では、大船渡方面で北上山地での中古生層や建設現場を見学して、古い地層での地質的問題点や地質調査技術を学ぶ計画を検討しています。

また、今年は日本応用地質学会設立50周年をむかえ、横浜で記念大会が計画されています。支部からも、発表や展示などを進める予定です。

日本応用地質学会東北支部の活動に対し、会員ならびに協賛会社のご理解とご協力に感謝しますとともに、今後の当学会活動に多数参加されることを期待します。

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