協会誌「大地」No47

日本応用地質学会東北支部代表幹事
国際航業株式会社
高見 智之

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35.日本応用地質学会東北支部活動報告

支部総会・講演会(5月18日)

支部研究発表会(7月20日)

1.はじめに

日本応用地質学会東北支部では、会員および賛助会各社の技術研鑽と、学会活動を通じた社会貢献をめざして、活発な活動を続けている。平成19年度はさらに会員や賛助会各社へのサービスの向上を目指すとともに、学会として最も重要な研究発表会の充実を図ることを計画している。

以下に最近の活動について概要を述べる。

2.支部総会・講演会・討論会

  1. 総会議事
  2. 特別講演「東北の土と縄文文化」山形大学山野井徹教授
  3. 討論会「“宮城県沖地震に備える”シンポジウムのフォローアップ」

(1)支部総会

平成18年度活動報告と会計報告、監査報告の後、平成19年度活動計画が承認された。主な活動は次の4つを計画している。

  1. 支部総会・討論会(5月18日)
  2. 研究発表会(7月20日)
  3. 現地見学会(9月28、29日)男鹿方面
  4. 講習会「応用地形学講習」(11月11日)

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写真1支部総会風景

(2)特別講演会

「東北の土と縄文文化」と題して山野井先生に講演して頂いた。東北の火山灰とクロボク土の観察から、新たな視点でクロボク土の成因について研究された成果を説明して頂いた。また、縄文土器の文様とワラビの関係、クロボク土と野焼きとワラビの関係を多方面からの考察を加えて論じられた。

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写真2特別講演の山野井先生

(3)討論会「“宮城県沖地震に備える”シンポジウムのフォローアップ」

「迫りくる宮城県沖地震に備える」と題して平成15年から3年間継続した支部シンポジウムについて、総括するとともに、今後のあり方を支部会員と議論を重ねた。

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写真3討論会での今後の展開に対して議論

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図1シンポジウムの経緯

3.支部研究発表会

昨年度は「環境と地質」というテーマで行ったが、今年は「地形と応用地質学」というテーマを持って実施した.

(1)一般発表(午前の部)

1)福島盆地北東部における阿武隈川河道と遺跡の変遷
−完新世の地形発達−((株)三本杉ジオテック村上智昭)

上智昭)福島盆地での河道の変遷と堆積物、遺跡の分布を考察し、河道の発達とともに人類文化の発達があったことを論じた。

2)宮城県北部−石巻湾の内陸地殻内地震に関する考察
(1)−既往調査のレビューと最近の地震発生状況−(東北電力(株)橋本修一)

既往の各機関による地質構造調査結果と最近の地震活動から、宮城県の内陸地殻内地震の規模を考察した。

3)スラグテストによる地盤の透水性評価事例
−実施および解析上の留意点についてー(東北農政局森一司・飯塚康太)

ボーリング孔や井戸の水面下に棒状の物体を水没または引き上げて地盤の透水係数を簡易に計測する手法を紹介し、その適用性と課題を論じた。

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写真4発表風景(1)

4)田川ダム左岸岩盤のゆるみ構造に関する調査について
(鳴瀬川総合開発事務所調査設計課長村上昌宏)

規模の大きな岩盤のゆるみ構造を詳細に調査し、その成因と構造・規模・性状を考察してダム建設上の課題を明らかにし、対応策を提言した。

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写真5発表風景(2)

(2)特別講演

中山間地における地震斜面災害
−新潟県中越地震、パキスタン北部地震の事例学ぶ−山形大学教授八木浩司

2004年新潟県中越地震と2005年パキスタン北部地震の斜面災害状況を、現地写真やリモートセンシングデータをふんだんに用いて解説するとともに、二つの地震による災害の類似性と地形地質的背景について講演して頂いた。また、パキスタンでのハザードマップ作成の試行や、天然ダム対策・監視の現状について紹介して頂いた。

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写真6八木先生による特別講演

(3)一般発表(午後の部)

5)宮城県における1976-2000年のがけ崩れ災害と地形地質
((有)ジオプランニング今野隆彦)

宮城県の過去の崖崩れ災害データから地形地質的特徴と降雨条件を考察し、今後のデータ管理と蓄積、再解析の必要性を論じた。

6)亀裂性岩盤における切土のり面の崩壊事例と地質技術者の役割
((株)復建技術コンサルタント宮路武・岡崎紀康)

亀裂性岩盤における道路のり面施工時の変状について三つの事例を挙げて解説し、原因と対応策を検討した。さらに地質技術者の役割や、「現場勉強会」の必要性を論じた。流れ盤のり面、法尻の側溝掘削、リッピングによる緩みなどの問題点が議論された。

7)急傾斜地対策工検討事例−崩壊・崩落機構に着目
−(応用地質(株)根本雅夫)

節理の発達した岩盤からなる急崖での急傾斜地崩壊対策事例を紹介し、トップリングなどの崩落機構に着目した対策検討の重要性を論じた。

8)玄武岩転石等の落石現場実験
(国際航業(株)阿部大志・高橋裕樹・高見智之)

急斜面上の浮き石除去工事の際の落石を活用して落石実験を行い、ビデオ撮影画像の解析や現地状況から落石の実態を考察し、回転する岩塊からの岩片飛び出しなどの現象など落石対策上注意すべき点を考察した。

(4)総合討論

総合討論の前に、直前に発生した新潟県中越沖地震の被害状況について、前日まで現場にいた正木光一氏(川崎地質)から速報された.報道されている箇所以外にも大規模に地すべり〜崩壊が発生していることや、多数の斜面崩壊が発生していることが報告された。

総合討論では、活発な質疑応答の後、地震と地すべりに関して重要な課題があることなどが議論された。

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写真7総合討論における意見交換風景

4.その他

日本応用地質学会東北支部で3回継続した一般向け公開シンポジウム「“迫りくる宮城県沖地震に備える”シンポジウム」のあと、消防関係の資料に紹介されるなどにより、一般からの講演依頼が増えてきている。昨年は秋保地区で実施し、今年は栄四丁目町内会から依頼を受け以下のように講演を実施した。

(1)講演の概要

防災勉強会は、第一部の講演と第二部の情報交換会に分けて行われた。第一部の講演として、当支部から「地質環境と地震防災」と題して、橋本副支部長が講演した。

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(2)講演風景

参加者総数約60名の盛況で、会場には宮城県沖地震、新潟地震、阪神淡路地震の災害写真のパネルが展示されていた。

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写真8、9防災勉強会での講演

(3)質疑応答

参加者は熱心に講演を聴くとともに、情報交換会を含めて次のような質問が出た。

  1. 中野栄は仙台港から砂を持ってきて埋めたと聞いているが液状化しやすいのか。
  2. 七北田川沿いの地域が予想震度図で真っ赤だったが、避難所の選定や対策など考慮されているのか。
  3. 大規模災害がおきると全国からボランティアがくるが、その受け入れ態勢は。
  4. 日本列島の今の動きは?昔、日本列島沈没という話があったが。

質問には橋本副支部長が丁寧に解説するとともに、回答困難な質問には汗を流しながら誠意を持って対処した。

(4)情報交換会

町内会の防災組織機能図や災害時要援護者支援、災害サポーター募集などの資料が配られて、町内会の協力を呼びかけていた。

<配布された資料>

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写真11防災勉強会で配布された資料

5.今後の予定

日本応用地質学会では、9月28日、29日に男鹿方面の現地見学会を計画している。現地見学会では、東北の第三系の標準層序の模式地を訪ね、専門家の大口健司先生や佐藤時幸先生による案内やお話しをいただき、さらにトンネル施工時の問題点や斜面安定上の課題などを現地で学ぶことを計画している。

また、11月16日には「応用地形学講習」と題して、支部講習会を開催する予定である。

これは、本部の応用地形学研究小委員会が発行した図書「応用地形セミナー空中写真判読演習」に基づいて、日本地すべり学会東北支部との共催で実施する。

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日本応用地質学会東北支部の活動に対し、会員ならびに協賛会社のご理解に感謝しますとともに、今後のこれらの会へ多数参加されることを期待します。

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