協会誌「大地」No45

50.地すべりが発生した盛土の由来とその分布

(株)テクノ長谷 布原 啓史・加藤 彰

1.はじめに

平成15年5月26日、三陸南地震発生直後、宮城県栗原市(旧築館町)館下地内の丘陵斜面で、地すべりが発生して多量の水を含んだ土砂が流れ下った。地すべり発生地を図-1に調査位置図として示す。

地すべりが発生した丘陵は頂高が40〜50mで、第四紀の軽石凝灰岩が分布している。

調査地丘陵に分布する軽石凝灰岩は、梅ヶ沢凝灰岩とされている(高橋・松野、1968)。西側に隣接する図幅(土谷ほか、1997)では、軽石凝灰岩は4つの火砕流堆積物(池月凝灰岩、下山里凝灰岩、荷坂凝灰岩および柳沢凝灰岩)に区分されている。

本報告では調査地の軽石凝灰岩の層位を明らかにするために重鉱物組成分析を実施した。

丘陵の中腹以高は、1970年頃に行われた造成によって人工改変を受け、沢部は軽石凝灰岩由来の盛土で埋められている。

今回発生した地すべりは、沢部を盛土した範囲内で発生していた。

人工改変地での災害対策を検討する上で、造成地内の盛土範囲を特定することは重要である。

本報告では、造成以前に撮影された空中写真から地形図(以下、旧地形図)を再現し、これと地すべり発生後の地形図(以下、新地形図)とを対比することによって盛土範囲を特定した。

また、造成後の空中写真から、植生や地表の色調の違いを読み取ることで、造成地内の盛土範囲を確認した。

表-1重鉱物組成分析結果

試料名 opx cpx hb bt 採取地
柳沢凝灰岩 柳沢凝灰岩模式地
荷坂凝灰岩 × × × 荷坂凝灰岩模式地
下山里凝灰岩 × × 下山里凝灰岩模式地
池月凝灰岩 × 池月凝灰岩模式地付近
梅ヶ沢凝灰岩 × × × × 梅ヶ沢凝灰岩模式地
調査地の軽石凝灰岩 × ボーリングA 深度11.5m
調査地の盛土 × ボーリングB 深度1.5m

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図-1 調査位置図

2.丘陵を構成する軽石凝灰岩の層位

調査地丘陵に分布する軽石凝灰岩の層位を明らかにするために、地表踏査した上で、周囲に分布する凝灰岩(池月凝灰岩、下山里凝灰岩、荷坂凝灰岩、柳沢凝灰岩および梅ヶ沢凝灰岩)の模式地から試料を採取し、重鉱物組成分析に供した。

重鉱物組成分析の結果を表-1に示す。

調査地の軽石凝灰岩の重鉱物はcpx,opx,hbの組み合わせからなり、同様の組成を示す池月凝灰岩に対比できる。

盛土は地山の軽石凝灰岩と同様の重鉱物組成を示すことから、造成地内での発生土を盛土材に転用したことが推定できる。

3.盛土分布範囲の特定

(1)新旧地形図の対比

旧地形図と新地形図をオーバーラップさせて対比することにより、造成地内の盛土部および切土部を特定したところ、造成地南側の旧沢沿いに8箇所の盛土部が分布していることがわかった(図-2)。

今回地すべりが発生した地点付近の新旧の地形図を図-3に並べて示した。地すべり発生地点は、南北方向の沢部を盛り立てた箇所であることが読み取れる。

(2)空中写真判読

造成から数年後の空中写真(76年撮影)を判読した結果を図-4に示す。造成地内の地表は、植生がないかまたはまばらで明茶褐色を示す部分と、植生が復活しつつあり暗茶褐色を呈する部分とに分けられる。

前者は、新旧地形図を対比から特定した切土範囲と、後者は盛土範囲とおおむね一致した。また、地すべり発生地点とその北側(図-4中の白点線で示す範囲)の地表は周囲に比べて暗い色調を示している。地表の暗い部分は、盛土が湿潤していたことを示唆するのかもしれない。

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図-2 造成地内の盛土の分布

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図-4 造成地内の空中写真

4.まとめ

調査地に分布する軽石凝灰岩は、梅ヶ沢凝灰岩ではなく池月凝灰岩に対比され、地すべり移動体の盛土は池月凝灰岩に由来することがわかった。

新旧地形図を対比することで造成地内の盛土分布範囲を特定した。また、造成後の空中写真から盛土切土分布を読み取ることができた。

本調査地のように切土部分が白色の岩盤からなる造成地では、盛土後の空中写真を判読することにより盛土範囲を概略的につかめる可能性がある。

《引用・参考文献》

  1. 高橋兵一・松野久也(1968)、涌谷地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅)、地質調査所、28p.
  2. 土谷信之・伊藤順一・関陽児・巖谷敏光(1997)岩ヶ崎地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅)、地質調査所、96p.

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図-3 新旧地形図の対比

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