80.丘陵に分布するN値50の凝灰岩における杭の支持力について

日本地下水開発(株)  黒沼 覚・山谷 睦・秋山 純一

1.はじめに

 山形県の尾花沢盆地周縁に発達する新第三系の凝灰岩・凝灰質砂岩からなる丘陵において、施設の建設工事に先立ち、ボーリング調査を実施した結果、丘陵の基盤として分布する凝灰岩・凝灰質砂岩はN値50以上を示した。当該建物の基礎工は、本層を支持層としたプレボーリング最終打撃工法による杭基礎(PHC杭)で設計された。試験杭で支持力確認した結果、支持力公式で求めた支持力よりも著しく小さくなる現象が発生した。本報告ではN値より算定する支持力と杭打ち記録から求める支持力を比較・検討した事例を紹介する。


2.土層構成

 本調査では、機械ボーリングを深度12m〜18mまで計3孔実施し、1m毎に標準貫入試験を実施した。機械ボーリング結果から作成した土層構成を一覧して表2.1に、土層想定断面図を図2.1に示した。
 本調査地の土層構成は、深度13m〜16m付近まで第四系の堆積物(火山灰質粘性土・砂、凝灰質粘性土・砂)よりなる。
 軟岩層は、暗緑灰色を呈する凝灰岩および砂質凝灰岩の軟岩である。本層上部は強風化を受けている。風化部以深は比較的硬質であり、コアは棒状に採取される。


表2.1 土層構成一覧表


土層構成区分 柱状図 深度(m) N値 概 要
土層名 土層名 分布 平均
表土層 FS 0.40〜1.20 - - 粘性土および砂質粘性土よりなる。
第四系
粘土・砂
層など
V
S
C
13.60〜15.90 3〜50 14 火山灰質粘性土や凝灰質砂などからなり所 固結している。
新第三系軟岩層 WR 16.41〜18.35以深 20〜50 4.5 風化した塊状の凝灰岩。上部は風化が強い。


土層想定断面図
図2.1 土層想定断面図


3.支持力公式

 ここでは、3孔で支持層を軟岩(砂質凝灰岩)とした支持力を算定する。建築基礎構造設計指針、道路橋示方書・同解説については、軟岩についての規定がないため、支持層の砂質凝灰岩を砂質土として取り扱う。比較に用いた支持力公式は以下に示す式である。
【1】建築基礎構造設計指針、【2】道路橋示方書・同解説



【3】鉄道構造物等設計標準・同解説



 以下に、a)杭長16mで先端支持力のみの場合と、b)杭長21mで、5m摩擦を考慮する場合の各算定式で求めた支持力算定結果を表3.1に示した。ここで、a)は当初設計の杭基礎で支持層に1m程度根入れしたもの、b)は試験杭の結果、所定の支持力が出なかったことから、杭基礎の見直し資料とするため、暫定的に5m程度支持層に根入れした試験杭に対応するものである。


表3.1 支持力公式による支持力算定結果表
支持力公式による支持力算定結果表

   
4.杭打ち記録から求める支持力との比較・検討

 ここでは、実施した試験杭の杭打ち記録から求めた支持力と、N値より推定する支持力を比較・検討する。
 杭打ち記録から求めた支持力公式は、以下に示す式である。


【4】建築基準法施工令式



ここに、 Ra:長期応力に対する杭の許容支持力、
F:ハンマーの打撃エネルギー、
S:杭の貫入量
W:ハンマーの重量、
H:ハンマーの落下高さ


4.1先端支持力のみの比較・検討

杭長16mでの支持力比較図
図4.1 杭長16mでの支持力比較図

 試験杭の杭長16mの支持力を支持力公式による支持力と比較して図4.1に示す。
 図4.1より、先端支持力だけで比較すると、杭打ち記録から求めた試験杭の支持力の平均値は197kN、標準偏差が64kNで、4.1先端支持力のみの比較・検討試験杭の杭長16mの支持力を支持力公式による支持力と比較して図4.1に示す。
 図4.1より、先端支持力だけで比較すると、杭打ち記録から求めた試験杭の支持力の平均値は197kN、標準偏差が64kNで、

【5】当該地に適応する支持力公式




4.2周面摩擦力を考慮した根入れ長ごとの比較・検討

 支持層に1mから5mまで根入れした場合の試験杭の支持力を周面摩擦力を考慮した支持力公式による支持力と比較して図4.2に示す。
 図4.2より、周面摩擦力を考慮すると、杭打ち記録から求めた試験杭の支持力は、【1】建築で算出した値より小さい値を示し、【2】道路橋で算出した値と【3】鉄道で算出した値の中間値に多く分布する傾向がみられた。  試験杭支持力平均値で比較すると、周面摩擦力による支持力増加率は、支持力公式による支持力増加率とほぼ同じであることがわかる。
 前項で推定した式4.1と比較すると、式4.1は試験杭支持力平均値−標準偏差×(0.25〜0.65)であった。以上のことから、前項で提唱した式4.1を当該地に分布する新第三系の凝灰岩・凝灰質砂岩の杭周面摩擦力を考慮した支持力公式として採用することが出来る可能性が高い結果であった。


杭長16mでの支持力比較図
図4.2 根入れ長ごとの比較図


5.まとめ

 以上の結果より、以下に示すことが推察された。

【1】新第三系の凝灰岩・凝灰質砂岩を支持層とする場合、建築基礎構造設計指針で推奨する支持力公式で算定する支持力は、実際には支持力不足となるケースが多いことに留意が必要である。 【2】このようにローカルソイル的な軟岩については、基準書に示されている支持力公式は適合しないことがある。
【3】今後の課題として、他地域に分布する同様な凝灰岩においての比較・検討することにより、今回の比較・検討で導き出した式4.1の整合性を確認、検討を加えることが必要であろう。
【4】今回は、支持力公式の見直しを中心に検討したが、当該地のような凝灰岩質の軟岩のN値の評価についても今後検討したい。


《引用・参考文献》

1)日本建築学会:建築基礎構造設計指針、p.173〜326、2001.

2)日本道路協会:道路橋示方書・同解説「T共通編W下部構造物編」、p.348〜433、2002.

3)鉄道総合技術研究所編:
鉄道構造物等設計標準・同解説「基礎構造物・抗土圧構造物」、p.201〜263、1997.
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