78.浅層地中熱の熱応答試験(TRT)方法

日本地下水開発(株)  秋山 純一・大沼 隆
日本環境科学(株)  土屋 睦

1.はじめに

 近年、地球温暖化ガスの一つである二酸化炭素の削減や都市でのヒートアイランド現象などの環境問題がクローズアップされ、未利用エネルギーの有効利用・クリーンな熱源として、地中熱が注目されている1)。ここでの浅層地中熱とは、深度100m前後の地中熱を熱源とし、冷暖房や消雪等に利用されるものを言う。浅層地中熱の利用にあたり、採熱能力、蓄熱能力などの熱特性を把握・設計する手法が確立されているとは未だに言い難い現況である。ここでは、地中熱交換坑(ボーリング孔)に一定熱量を供給するTRT試験と呼ばれる試験方法と試験結果に基づく数値解析により、熱交換坑の熱供給能力を予測する方法とその実施事例を紹介する。


2.浅層地中熱利用の概要

 地中熱交換坑は、ボーリング孔にパイプ状の採熱管を挿入し、地上との間を循環液を媒体として熱を運ぶシステムである。採取熱は、直接あるいはヒートポンプを介して冷暖房・給湯・消雪等に使用する。熱交換坑は一般に二重管方式とU字管方式が使用される。浅層地中熱利用の概念図を、図-1に示す。

浅層地中熱利用概念図
図-1 浅層地中熱利用概念図


3.試験方法

(1)TRT試験方法
 TRT試験は、一定熱量を供給する試験方法で、図-2に示すように、地中熱交換坑からの環水(t℃)を発熱ヒーターを用いて加温し、一定温度(Δt)上昇した水(t+Δt)を地中熱交換坑に送る。
 送水量は一定とする。地中熱交換坑内部で熱交換して戻ってきた循環液(t’℃)は、さらに電熱ヒーターで一定加温され(t’+Δt)坑内に送水する。この温度変化を地中熱交換坑の出入り口温度やケーシング壁温度を測定し、自動記録する。

 このときの温度上昇曲線は、その地盤特有の物性値と密接に関係することが知られており、地中熱交換坑周辺の地盤の熱伝導率を求めることができる。

[主要使用機材]
1.電熱ヒーター:3kW(200V)×1本、10kW(200V)×1本、2.水槽:300(リットル)、3.循環ポンプ、4.流量計、5.T型シース熱電対、6.自動記録ロガー、7.発電機(200V)

図-2 TRT試験概略図
図-2 TRT 試験概略図


(2)数値解析方法
TRT試験及び数値解析方法の基調となる理論式は、式-1に示すとおりである。



記号
Tf:循環液温度=(流入温度+流出温度)/2[℃]、
Q:供給熱量[W]、λ:熱伝導率[W/(m・K)]、
L:熱交換坑の深さ(長さ)[m]、t:経過時間、
m:坑径・熱抵抗などから決まる定数、Tsur:地中
初期温度[℃]
 数値解析は、山形大学工学部横山が開発したUチューブ解析プログラムを用いた。試験結果との適合性を検証するため、TRT試験のほか、連続採熱試験を実施し、数値解析が試験値と適合することを確認した上で、実際の稼働における熱交換坑の熱供給能力を予測した。

(3)地中垂直温度分布の測定数値解析に必要な地中の初期温度を確認するため、熱交換坑壁面に熱電対を設置し、深度別地温を測定した。


4.試験地及び地中熱交換坑の概要

 試験地は、秋田県平賀郡地内の山岳・丘陵地で、深度2.2mまで砂礫、その下位は安山岩質岩石からなる。
  地中熱交換坑は、深度100m、採熱方式はU字管方式、採熱管(Uチューブ)口径は20A、Uチューブ周りの充填材は珪砂である。


5.TRT試験結果

 TRT試験用の循環液温度を均一にするため、熱交換坑内の循環液温度と同じ温度に調整した循環液を1時間程度循環した後、13kWの電熱ヒーターで加温し、一定温度(6℃)上昇した循環液を地中熱交換坑に送水した。送水量は30.52リットル/分(平均値)とした。TRT試験結果を、図-3に示す。
 試験結果より、温度変化量と経過時間曲線を片対数(常用)グラフに作図し、図-4に示す。この場合の温度変化量T(℃)とは、次のとおりである。
 T=(流入温度-流出温度)/2-坑内初期温度坑内初期温度は15.55℃であった。図-4より、単位対数時間当たりの温度変化量を読み取り、式-2を用いて熱伝導率を求める。



記号
Qh:供給熱量[kW]、λ:熱伝導率[W/(m・K)]、L:発熱体(熱交換坑)長さ[m]、dT/dln(t):単位対数時間当たりの発熱体温度変化量[K]
式-2において、L=100m、TRT試験結果より得られたQh=12.624[kW]、図-4の解析で得られたdT/dln(t)=5.231[K]より、熱伝導率λ=1.92[W/(m・K)]と算出される。

図-3 TRT 試験結果図
図-3 TRT試験結果図


図-3 TRT 試験結果図
図-4 経過時間-温度変化線図


6.数値解析とその妥当性の確認

 数値解析に用いた物性値は、TRT試験結果から得られた熱伝導率λ=1.92[W/(m・K)]、地中垂直温度分布の測定から得られた平均地中初期温度13.3℃のほか、表-1に示すとおりである。
 連続採熱試験は、36℃の一定温度、流量30リットル/分を連続24時間、地中熱交換坑に供給する方法で実施した。この採熱試験結果と数値解析結果を比較して、図-5に示す。図の縦軸の採熱量[W/m]は、地中熱交換坑長1m当たりに換算した採熱量である。
 流入温度36.0℃での連続採熱試験で得られた採熱量69.5[W/m]に対し、数値解析で予測される採熱量は68.8[W/m]と試験値に近似していることから、数値解析の妥当性は確認できた。


表-1 数値解析に用いた熱物性値


熱伝導体  熱容量[KJ/m3・K] 熱伝導率[W/m・K]
循環液(42%プロピレングリコール) 4034 0.502
U-Tube(カーボンブラック2層管) 1995 0.46
充填材(珪砂) 2390 1.40
土 壌 2670 1.92


図-3 TRT 試験結果図
図-5 連続採熱試験結果と数値解析値の比較


7.連続稼働時の採熱量の予測

 冬期間の消雪熱源として連続稼働した場合の採熱量を予測した。消雪した後の循環液の熱交換坑への流入温度を3.7[℃]、流量30リットル/分とした時の採熱量をシミュレーションした結果を、図-6に示す。
 結果は、温度差=1.27[℃]、採熱量=26.62[W/m]、Uチューブからの距離3pの地点での平均地中温度は8.85[℃]と予測される。


連続稼働時の採熱量シミュレーション結果
図-6 連続稼働時の採熱量シミュレーション結果


8.まとめ

・今回紹介したTRT試験は、数値解析と併用することにより、実稼働時における採熱量を設計できる。
・TRT試験のほかに一定温度で一定流量の供給を数段回実施する段階採熱試験がある。この段階採熱試験と「TRT試験+数値解析」の適合性も確認されているので、今後の機会に紹介したい。


《引用・参考文献》

1)全国地質調査業協会連合会編:ボーリングポケットブック、pp.410,2003.08.

2)SIGHILD GEHLIN,Lulea University of Technology :Thermal Response Test、pp.10、1998.
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