エヌエス環境(株)仙台支店 第一環境調査室 室長

工藤 勝夫氏
プロフィール
昭和43年6月1日生まれ 青森県むつ市出身 血液型O型
趣味:フライフィッシング。
中学・高校時代からテニスも。

非常に温和でまじめな人柄の工藤さん。ご趣味がアウトドアなのは、やはりフィールドエンジニアの証でしょうか。さらに温和な人柄の浅野支店長も同席されて、土壌汚染調査のあれこれをお聞きしました。
 
47.現場のプロに聞く(土壌・地下水汚染調査の巻)

ご経歴と今のお仕事に就かれたきっかけを教えてください。

 学生時代は、山形大学の理学部で、第三紀中新世の堆積岩を対象に、微化石層序をやっていました。
 大学を卒業する際、当時社会問題化していた環境問題にすごく興味があったことが今の仕事に就いたきっかけです。あと、学生時代に学んだ純粋な地質学以外のことを是非ともやってみたかった。
 入社して以来、他にも色々な調査を担当しましたが、現場での試料採取から分析、レポート作成まで、土壌・地下水汚染調査に携わってから早や15年目です。


現場で印象に残った出来事などがあれば教えてください。

 土壌や地下水の汚染調査には、今の土壌汚染対策法(以下、土対法)施行以前から従事しています。
 現場は様々ですが、やはり工場跡地などが多い。現場で苦労する点は、えてして埋設物が多いことです。古い配管図等を必ず事前に調べますが、十分な記録はなかなか残っていないし、試掘を行っても瓦礫が多くて、試料採取中に結局古い配管等に当たってしまうことがある。
 事前調査地点の周囲をよく見て、引込み線の痕跡等にも注意するのですが、下に注意を払い過ぎると、可動式ボーリングマシンの直上に電線等の障害物があったりもします。市街区域や旧施設内の調査は、そういった諸々の障害物にまず苦労します。ですから、現場で工夫することは、如何にしてこういった障害物を回避しながら、効率的かつ目的に応じた試料採取を行うかです。


土壌や地下水を採取する際の留意点などを教えてください。

 マシンを使った試料採取ですが、地下水の二次汚染や、汚染物質の溶出などがありますから、泥水や掘削水を使わないφ88mmの無水掘削コアリングを行うことが多いです。ただし、特に揮発性物質の場合、コアが焼き付いて熱を持つとまずいので、きわめてゆっくりと掘削を進めることに留意します。
 あと、採取した試料に対して、できる限りその場で、簡易なガス分析を行っておくこと(多成分の現場測定が短時間で可能な、現場用土壌汚染ガス測定器:ECOPROBE5を紹介していただきました)が、室内分析結果の妥当性を検証したり、現地での補足調査などを提案したりする上で重要だと思います。
 取した試料の保管も重要です。専用容器等で密閉することはもちろんですが、適切な薬品処理を現地でやってしまうことが肝心な場合が多く、その辺りは、本来、専門家にまかせていただけるとありがたいです。持ち込み試料の分析のみを依頼される場合もありますが、採取状況や保管状況のわからない試料は、分析結果が妥当なものかどうか、評価できないのでやはり怖いのが本音です。


東北地区での土壌・地下水汚染調査の現状や今後などをお聞かせください。

 土対法施行以来、確かに案件数は増えていますが、同法が適用されたものではなく、土地の所有者さんや管理者さんによる自主検査的な汚染調査が多いです。
 土地の使用履歴というのは意外とわかっていないもので、区画整理等をしていて、予想外に汚染された土地が見つかったというような例もあります。
 あとはISO14000に関連して、大規模な工場を操業している民間会社さんが、環境管理システムの一環として、定期的な環境モニタリングを実施される例もあります。
 土対法も施行されていますが、今後は、土壌・地下水汚染調査は、単なる現況調査ではなく、最終的に汚染対策を講ずることが目的だという意識を強くもつことが必要ですね。様々な対策を見据えた調査計画や提案、分析結果の評価が重要だと思います。
 現場調査から、試料採取、分析、評価、対策検討までは一連のものですから、今後の業務の中では、元請・下請に関わらず、是非ともこれらの全てのプロセスに携われるようにしていきたいと思います。


汚染調査等に携わる若手の技術者に一言お願いします。

 以前は、その案件の担当者が、現地調査(試料採取)、室内分析、レポート作成を通しでやることが多かったです。現場のことがよくわかっていますから、『この試料に対してこんな分析値が出るのはおかしい。なぜだろう?』とか、色々と評価ができました。
 今は、現場は現場、分析は分析と分業化が進みつつあります。現場の状況はもちろん、試料がどのような場所で、どのように採られたものかがわからないまま分析を行ってしまうことが往々にしてある。
 ですから、それぞれの担当者が、業務全体をよく見て、その目的とか、背景や経緯、自分の役割分担を十分に理解することが重要だと思います。汚染調査の大きな成果の一つは分析データですが、現場を含めた業務全体を見通すことができてはじめて、データを見る目、評価する目が養われる。このことを、若手の皆さんに強く意識してもらいたいです。


【取材後記】
 取材後、施設内を案内していただき、現場で使用する試料採取用の各種ツールや、ダイオキシン類などの調査に備えたエアーマスク等の装備の他に、様々な分析機器や試料の保管状況を紹介していただきました。
 現場もさることながら、室内分析自体が非常に緻密で苦労の多い作業内容であることをあらためて実感しました。
 柔らかな口調でありながら、真剣な眼差しで汚染調査の話を語っていただいた工藤さん、浅野支店長、本当にありがとうございました。
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