(株)菊池技研コンサルタント  菊池 喜清
26.みちのくだより岩手 霊峰五葉山と五葉温泉

はじめに

 昔より北上山地の東側には温泉が絶対湧かないという定説のような話があったが、最近の探査技術と掘削技術により、それが覆された。「温泉で地域住民に恩返し」の願望と最新技術がドッキングし見事に温泉が湧出、地域起しに貢献している話をいたします。
 霊峰五葉山は岩手県南東部に位置し北上山地では早池峰山(標高1914m)に次ぐ1341mの霊峰として尊峰され、三陸海岸を一望できる山で動物や高山植物の宝庫でもある。この中腹に五葉牧野があり、その一角に温泉(標高430m)を掘り当て1200m下流に引湯、平成18年度には満水予定の鷹生ダムの湖畔に平成12年に温泉入浴諸施設を整備し営業に至っています。


地域貢献の願望

 この温泉に夢をかけた人、「元大船渡市農協組合長村上元樹氏」この人であります。
 平成8年は市農協設立30周年になることから、「この30年育んでいただいた地域の方々に恩返ししたいがそれは何か」と考え、たまたま浮かび上がったのが、「当地方に温泉が無く、地域の人々は内陸の温泉に時間と経費をかけて出かけていた」ということであった。そこで、何としても温泉を掘り当て地域住民に恩返しをしたいと考えたことが発端であった。平成7年9月岩手県知事と懇談する機会があり、このことを申し述べ県からも何かしらの支援を願った。この話が市民の間に流れ実現要望の声が上がった。後に引けなくなった村上氏は、農協が単独で進めるより地元の方々と一体制の大事さを感じ、地元企業12社で法人を組織し進めることとした。


鷹生ダム堤体より五葉温泉を望む
鷹生ダム堤体より五葉温泉を望む
鷹生ダム堤体より五葉温泉を望む
ダム湖畔に建つ五葉温泉


地形・地質と温泉分布

 岩手県の地形は、北上山地,奥羽山脈および北上低地帯の3地域に大きく区分できる。北上山地は、古生代や中生代の堆積岩(砂岩・粘板岩・石灰岩等)及び花崗岩で構成され、標高400m以下の比較的なだらかな山地からなり、岩手県の2/3の面積を占めている。
 岩手県の温泉は火山帯である奥羽山脈及びその周辺に多く存在し、古くから湯治や観光に利用されてきている。近年は、温泉が無かった北上山地各所において温泉開発が進み温泉入浴施設が建設されている。


温泉開発

 平成7年に県内の東和町が温泉掘削を開始した。村上氏はその現場を視察し、掘削業者の専務に大船渡で温泉を掘りたいと話した。掘削予定地は市農協所有の五葉山麓の牧野内である。専務は直ちに現地踏査をし、「湧出する。推定の温度は深さ2000mで41〜46℃、湧出量は50〜150m3/日、泉質は重曹泉又は単純泉」と話した。そこで、事前探査無しのヒットアンドペイ(成功報酬)方式で契約した。【1】先ず掘削機材出入の道路整備や諸手続などに追われながらも、掘削は平成8年12月に着工、翌9年2月初旬に完工した。【2】12月〜2月は冬期積雪でもあり大変苦労した。掘削技師は中近東で石油掘削経験者の外国人が数名いた。さて、掘削結果は、深度2000mで39.5℃、地上で36.1℃、湧出量222m3/日でアルカリ性単純泉であった。推定した湯温より低いため加温機設置とし、1.85億円を成功報酬とした。掘削完了から温泉をオープンするまで、満3年余の時間が流れた。当初の温泉施設予定地は農業振興法の対象地で、この解除問題、温泉水が盛川を経て大船渡湾に流出するため漁業問題等の諸問題をクリアするために時間を費やした。
 結果的には、ダム湖畔の市有地まで1200mパイプ引湯し、温泉施設を建設し開業することができた。


大船渡湾湾口より望む五葉山
大船渡湾湾口より望む五葉山


 五葉山・ダム湖畔・待望の温泉

 五葉山は、渓谷沿いにはうっ蒼とした檜の群林がと思うと欅や楓の大木が密生し野生動物の棲家に絶好の大山で、春から夏にツツジや石楠花の花が群生する。
 昔は信仰の山として、今でも船舶航路の標識の山であり、最近は登山者も増えてきた。その麓には県営の鷹生ダムが建設され、平成18年6月まで湛水試験が行なわれ、以降は満々と五葉山清水で満たされた湖面に五葉山の雄姿が映えることであろう。
 念願だった「地域住民の癒しの湯」で恩返しができる湖畔の開湯。開業より満5年、宿泊施設は無い(検討中)が、地元は勿論近郷遠方よりの来客には感謝でいっぱい。今までの苦労の汗も、“溶けて流れて大船渡湾(三島)にそそぐ”。
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