東北工業大学   千葉 則行

千葉 則行

21.「第43回日本地すべり学会研究発表会」参加報告

 東北では平成7年の福島大会以来、9年ぶりに(社)日本地すべり学会研究発表会が秋田市内の秋田県文化会館を主会場に、平成16年8月31日〜9月3日にわたって開催されました。今回の研究発表会では、県民講演会、研究発表会、意見交流会、現地見学会、機器展示会などが行われ、県民講演会約300名、研究発表会約650名、意見交流会300名、現地見学会約200名の参加を得ていずれも盛会なものになりました。

 まず初日の31日夕刻、三井アーバンホテル秋田において同学会の一般市民への普及・啓蒙活動を目的に県民講演会が行われました。講演者として岩手県立大学学長 西澤潤一先生と東北大学大学院教授 今泉俊文先生が招かれて、それぞれ「役に立つ科学、役に立たない科学」、「東北地方の活断層と直下型地震」と題して講演されました。講演内容として、西澤先生は日本の電子工学・半導体工学の歴史を辿りながら、幾段階かの変革時期においてキーパーソンとなった科学者を紹介するものでした。また今泉先生はマグニチュード、地震の発生メカニズムといった地震学の基礎知識の説明から入り、秋田県内の地震の履歴、活断層の見分け方・調査法などを紹介するといった内容でした。

 翌二日目秋田市文化会館において研究発表会が行われましたが、発表会に先立ち、学会賞の表彰式があり、同学会東北支部・地すべり安定解析用強度決定法に関する委員会(委員長 大河原正文 岩手大学助教授)が編集執筆した「地すべり安定解析用強度決定法 −実務における新たな展開をめざして−」が谷口賞(学会活動に大きく貢献)を受賞しました。これは実務的に土質試験結果を安定解析に適用できる技術者の至便の図書、さらに地すべり対策技術の土質力学試験結果を活かす面で指針となる参考図書が初めてであることなどが高く評価されたものです。表彰式では、代表として東北支部・山崎孝成 副幹事長が表彰状を受け取りました(写真1)。

 表彰式後、昨年学会賞を受賞された群馬大学教授 鵜飼恵三先生による「地すべり防止工の効果を評価するための弾塑性FEMの開発と適用に関する研究」と題して特別講演が行われました。鵜飼先生は、ご自身とFEMとの出会い、せん断強度低減法、弾塑性FEMによる対策工の効果の評価、FEMによる対策工の設計などを紹介し、最後に斜面安定問題におけるFEMの利用は実用段階に達していることを強調されて講演を終えました。

 引き続き、午後からさっそく三会場に別れて研究発表会が開始され、事例報告、地すべり機構、地すべり調査・計測、斜面安定、対策などのテーマ別に進められました。この他に今回、「東北地方の大規模岩盤地すべり」、「古第三紀凝灰岩地すべりの広域的比較」をテーマとした特別セッションがあり、特に前者のテーマは同学会東北支部が企画したもので、発表者から貴重な研究成果が披露されました。研究発表会では三日目までの間に、口頭発表128件、ポスターセッション28件の発表が行われました。

 二日目の夕刻には三井アーバンホテル秋田に会場を移して意見交流会が行われ、秋田の“なまはげ”の余興出演もあり、たいへん盛会でした。

 四日目は八幡平方面(Aコース)と東成瀬方面(Bコース)の二班に別れて現地見学会が行われました。八幡平方面は秋田市〜田沢湖〜八幡平澄川地すべり〜秋田市、東成瀬方面は秋田市〜谷地地すべり・逆川地すべり〜狼沢地すべり〜秋田市、といったコースを辿るものでしたが、小生は東成瀬方面に参加しました。

 バス三台で一路、東鳴瀬村に向かい、最初の見学地である谷地地すべり地内の広大な幾多の地すべり地形が眺められる高台で下車し、過去の変動履歴、変動規模、地質・地質構造、地形変遷、対策などの概要説明を受けました(写真2)。その後、逆川地すべりに向かって移動し、同地すべり末端部の移動体が段丘礫層にのし上がった見事な露頭を観察しました(写真3)。再びバスに乗車して狼沢地すべりに向かいましたが、同地すべりではあいにくアクセス路の状態が悪く、北側に隣接するスキー場から遠望することになりました。しかし、かえって地すべり全体の様子が手に取るように把握することが出来たようです。見学会の最後は、沼又地すべり地内の造成工事によって見出された地すべり移動体の小岩体(岩盤)を観察し、無事見学会を終了しました。

 最後に、これまで過去の研究発表会の運営は、“地すべり”ということもあって県担当部署を主体とした実行委員会がその任を司ってきましたが、今回の秋田大会では県担当部署が一定の距離を置いたスタンスで実行委員会が結成され、その運営がなされました。これは年々世情が厳しくなってきた表れであり、今後の運営は、全国的に支部の組織・活動が充実してきたこと、地域の貢献を図ること、県での対応が難しくなってきたことなどから、大会事務局も含め、可能なところでは支部に実行委員会の主体をおくことになりそうです。是非、その節にはいろいろとご協力いただきたく、この場を借りてお願い申し上げます(日本地すべり学会東北支部 幹事長として)。

 末筆ながら、今回の大会の運営に携われた関係者の方々に深く感謝申し上げ、参加報告とさせていただきます。


   
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