73.浅層地中熱の採熱試験結果と消雪時の採熱量の比較検討

日本地下水開発(株) 
武田 能拓・山谷 睦
秋山 純一・安彦 宏人
1 .はじめに

 少子高齢化社会に対応し、誰もが安全かつ円滑に通行できる歩行空間のユニバーサルデザインが望まれている。積雪慣例地域では路面凍結による危険、積雪による歩行空間の減少等冬季特有のバリアを軽減するための施設整備が重要である。この冬季特有のバリア軽減施設の一つとして、自然・未利用エネルギーの利用が注目されており、なかでも地下水の揚水を伴わない地中熱を利用した無散水消雪施設の施工が盛んになってきている。しかし、地中熱を利用した消雪施設を設計する場合、熱源となる採熱坑からの冬期間の採熱量を事前に予測し、消雪可能面積や必要採熱坑の仕様を決定することが必要となる。


 今回は、採熱坑の採熱量を把握する目的で実施した採熱試験と、採熱試験を行った採熱坑を利用して施工した消雪帯に冬期間循環液を常時送水した実際の消雪時における採熱量について比較検討を行ったので報告する。


2 .採熱坑の仕様

 採熱坑は、深度73mの保孔管として圧力配管用炭素鋼鋼管(STPG100)を挿入した。裸孔と保孔管の間はモルタルセメント、保孔管と熱交換器の空隙はセメントミルクを充填した。採熱坑の仕様を以下に示す。

@仕上げ口径:STPG100A
A採熱坑深度:G.L−73m
B熱交換器:U字管×2回路(ダブルU チューブ方式)(採熱管)(架橋ポリエチレンパイプ20)
C地表部仕上げ:旧建設省型ハンドホール600×600


3 .試験方法

3.1 .採熱試験

 採熱試験を行う前に、坑井内の初期温度を把握することを目的として、熱交換器内の循環液の水温を深度5m毎に測定した。

 循環液の流量による採熱量の相違を把握することを目的とした流量変化採熱試験と循環液の温度の違いによる採熱量の相違を把握することを目的とした水温変化採熱試験を行った。採熱試験の手順を以下に示す。

(1 )流量変化採熱試験
 流量変化採熱試験は、水温を一定に保った循環液(今回は40 ℃と設定)を採熱坑内の熱交換器に送水し、循環液の流入水温と流出水温を随時測定した。流入水温と流出温度が安定した時点で流量を変化させ、3段階試験を行った。

(2 )水温変化採熱試験
 水温変化試験は、流量を一定にした循環液を採熱坑内の熱交換器に送水し、循環液の流入水温と流出水温を測定した。流入水温と流出水温が安定した時点で1段間の試験を終了し、次の試験段階は、循環液温が試験前とほぼ同じ状態になったことを確認した上で3段階(5 ℃、30 ℃、40 ℃)実施した。

3.2 .冬季消雪稼働方式
冬期間、実際の消雪時における採熱量を把握することを目的として、ポンプを24時間連続稼働させて、採熱坑の流入水温と流出水温を30分間隔で測定した。観測期間は2003年1月4日〜2003年3月5日までの約2ヶ月間である。

3.3 .採熱量の算出方法
採熱試験により以下の測定値が得られる。
・流入水温・・・Tin(K)
・流出水温・・・Tout(K)
・流入・流出水温差(K)・・・△T=Tout−Tin
・循環水流量・・・Q(R/min)
上記測定値を用いて採熱量qb(W)を求める。
qb(W)=C×△T(Q ÷60)・・・(式3.1)
ここで、C:比熱(J/(s・K))
 式3.1 で算出される採熱量qb (W)は採熱坑1 本当たりの採熱量であるため、採熱坑の深度で除することにより、採熱坑1m当たりの採熱量q (W/m )に換算した。


4 .調査地の地形・地質概要
本調査地は、河間低地上に位置し、孔底付近までは粘性土・腐植土・砂層が主体となっている。


5 .採熱試験結果及び考察

5.1 .流量変化採熱試験
 流量変化採熱試験結果を基に流入量と採熱量(W/m)の関係を求めた。流入量と採熱量の関係を図5.1に示す。採熱量が負の値となっているのは、流入水温を地中温度よりも高い40 ℃と設定したためである。

 図5.1より、送水量と採熱量の関係は、送水量が10R/min付近までは送水量の増加と共に採熱量も増加する傾向がみられ、送水量が10R/min付近以上では送水量が増加しても採熱量はほぼ一定となった。

5.2 .水温変化採熱試験
 水温変化採熱試験結果を基に流入水温と採熱量q(W/m)の関係を求めたものを図5.2に示す。

送水量(R /min )と採熱量(W/m ) 流入水温(℃)と採熱量(W/m )の関係図
図5.1 送水量(R/min)と採熱量(W/m)
図5.2 流入水温(℃)と採熱量(W/m)の関係図


 図5.2より、流入水温と採熱量の関係は、高い相関関係を示していた。安彦ら1) のシングルUチューブ方式の採熱坑における採熱試験では流入水温と採熱量の関係について調べられており、その結果、両者は高い相関を示しており、今回も同様の結果が得られた。

6 .冬季稼働観測結果

採熱試験による採熱試験結果と実際の消融雪施設稼働時における採熱量を比較するため、冬季消雪時の日平均水温とこれに対する日平均採熱量(W/m)の関係を図6.1に示す。


 安彦ら1)の実験では、冬季の消雪稼働結果から求めた流入水温と採熱量の関係式の傾きは、採熱試験で得られた両者の回帰式の傾きとほぼ一致していた。しかし、今回の実験では、採熱試験で得られた回帰式の傾きは−4.25、冬季消雪稼働時の−7.10で、実際の消雪稼働時の方が、採熱試験より傾きが大きくなった。
冬季稼働時の日平均流入水温(℃)・採熱試験時流入水温と採熱量(W/m)の関係図
 

図6.1 冬季稼働時の日平均流入水温(℃)・
採熱試験時流入水温と採熱量(W/m)の関係図



7 .おわりに
 流入水温変化採熱試験と実際の消雪稼働時の適用については、安彦ら1) の試験結果とは異なり、流入温度と採熱量の関係は必ずしも一致しない結果が得られた。採熱特性の違いについては、地下水の賦存状況や地層の特性等、立地条件の異なる各地の実験施設のデータから解明していく必要がある。


〔引用文献〕
1 )地中熱の採熱量試験と消雪時の採熱量の比較検討、全地連「技術e-フォーラム2002」よなご講演集:安彦宏人・秋山純一・土屋 睦
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