(株)テクノ長谷   加藤 彰

24.平成16年度(社)日本地すべり学会東北支部
第20回総会・特別講演・発表討論会

 平成16 年6 月4 日午後1 時から、東北学院大学において平成16 年度(社)日本地すべり学会東北支部第20 回総会および特別講演・発表討論会が行われた。事前の参加申込数は80 数名であったが、当日参加も多く、総勢110 名を数え盛会であった。

 昨今、近い将来発生するといわれている宮城県沖地震に対する関心は益々高くなっている現状にある。今回の特別講演は,この宮城県沖地震をキーワードとした2 題であり、引き続き行われた発表討論会も,地盤災害である地すべりの危険度評価に関するものとなった。以下、上記特別講演会と発表討論会の要旨を報告する。

[(社)日本地すべり学会東北支部第20 回総会]

 宮城豊彦支部長誕生から2 回目の総会となる(社)日本地すべり学会東北支部第20 回総会は、支部長挨拶にはじまり、平成15 年度事業報告から、平成16 ・17 年度役員改選の件までの全6 議案が発議され、各議案は全員一致で承認された。平成16 ・17 年度役員は以下のとおりである。

支部長 宮城豊彦
(東北学院大学文学部・教授)

副支部長中村秋男
(宮城県砂防水資源課長)

副支部長阿部真郎
(奥山ボーリング(株)・本部長)

監 事芳賀正廣
(秋田県砂防課・課長)

監 事川村正司
(宮城県森林整備課・課長)
 
[特別講演会]

1.宮城県沖地震対策研究協議会の設立と今後の展望

東北大学大学院工学研究科・
災害制御研修センター
源栄正人氏

 宮城県域は、切迫する宮城県沖地震に備えて如何に対策を施し、その効果がどうであったかが遠からず試される地域であり、安心で安全な生活を営むことができる地域社会を作ることが重要である。地域防災力向上のために何より大切なのは、地域の地震防災に関連する自然情報(地震・地盤情報)と社会情報(建物現況など)の共有化であり、共有プラットフォ−ムの構築である。地域の地震防災の現状を把握した上で、自然環境と社会環境に調和した形で防災力を向上させ、21 世紀の科学技術を有効利用し、少子高齢化社会に即した防災対策を考えていくには自然科学と社会科学の融合が必要となる。

 地震防災にかかわる最新の科学技術に目を向けると、地震情報に関する利用研究では、次の宮城県沖地震の際には、仙台と古川では主要動の到達の約15 秒前、石巻では約8 秒前、白石では26 秒前に地震情報を伝えることが技術的に可能であることが分かってきている。地震の主要動が来る前にどのように情報を伝達し、何ができるかなども地域で考える時期に来ている。

 以上ことを踏まえ、地域における産官学連携組織の必要性,「産」「官」「学」の役割を示し、また「宮城県沖地震研究協議会」の設立に至る経緯及び協議会の活動内容、また幾つかの問題点について指摘した。

 (社)日本地すべり学会東北支部は正に産官学の共同体であり、我々が今何をしなければならないかを提起する講演となった。
講演中の源栄正人氏
2.地震時の地盤災害減災に地形・地質の知恵を活かせるか

東北電力(株)
土木建築部土木地質担当課課長
橋本修一氏

 近い将来発生するであろう宮城県沖地震に備え、我々が共有する「地質・地形」の知恵をどう活かしたらよいかを、20 世紀の生んだ科学技術者であり同時に随筆家でもあった寺田虎彦の格言や名言を随所に織り込んだ興味ある、そして分かりやすい講演であった。

 内容は、“宮城県沖地震はどんな地震”に始まり、“記憶の掘り起こし〜人の記憶から地質の記憶まで〜”、“自然の記憶の覚書”、“1978 年宮城県沖地震では震度予測図をどう見る”、“地震防災地図をどう活かす”に至って、最後に“宮城県沖地震を正当に怖がること”で締めくくった。
講演パワーポイント・ラストページ
[地すべり発表討論会]

1.人工地盤の災害ポテンシャルに関する新しい評価手法について

(有)アドバンテクノロジー社長
濱崎栄作氏

 様々な人工地盤のうち、対象とした災害は「直接的に人的な被害を及ぼす危険性のあるもの」であり、人工地盤区域の抽出は、@新旧図面の比較(1/25,000 地形図)A空中写真判読による抽出B行政資料等から行った。危険度評価の範囲は「盛土地盤全体」とした。

 ここでは、宮城県N 地区における評価事例を示し、以下の3 つの手法により検討した。

a.H 法:空間データで球面すべり(二次元でいう円弧すべり)により機械的に安定度を計算

b.M 法:人工地盤に関する(土地条件)指標を生成し建物被害(分布)を説明

c.K 法:人工地盤の地すべり的な変動の危険性を数量化U類による予測モデル式を使って相対的に評価
三次元球面すべり法(イメージ図)
 解析結果では、全体の97%にあたる31の人工地盤では、地すべりの危険性は40%以下であった。1978 年宮城県沖地震の際にN 地区で発生した人工地盤の変動形態は、切り盛り境界における不同沈下であり、地すべり型は確認されていない。したがって、地すべりが発生する危険性は低いとする検討結果は妥当なものと考えられた。しかし、家屋の被害やクラックの分布等の変動形態を推測するデータを加えた統一的な手法を確立する必要がある。

2.地すべり移動体における地表と地中の変形構造に関する分析
−秋田県狼沢地すべりを例として−

東北学院大学教授・
日本地すべり学会東北支部長
宮城豊彦氏

 初生的な地すべり性破壊に端を発した破壊プロセスは、その破壊自体が次の破壊への初期条件となり、一旦破壊された地すべり地形領域は、いわゆる自立的な破壊過程を辿るという見方を提案している。東北の第三紀層地帯に多く分布する大規模な岩盤地すべりは、その多くはより小規模な地すべりが繰り返されて大規模化したと考えられるものである。これらの検証を行うべく、秋田県狼沢地すべりを例に、「空中写真判読による危険度評価手法」の評価カルテを用いてAHP 得点を求め、地すべり地形、すべり面形状の把握を行い、移動杭の変位からみた地表面のヒズミ分布解析を行って、移動体ボーリングコアのキレツ密度・層相解析(ボーリングコア写真のみから判定)を行った。

 狼沢地すべりの微地形を系統的に分類把握し、地表面応力場、スベリ面形状、移動土塊物質特性の対応を検討した結果、これらは、何れも極めて良好な対応を示し、「地すべりという動きが、これら一連の特性を発生させていると考えてよい」ことが明らかになった。
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