住鉱コンサルタント(株)

工学博士 福島 啓一

08.地質調査と土木工事

 13.地質調査の精度

 強大な地圧でトンネルが壊れたり、ひび割れたりするのは、施工が悪いと考えられる例も稀にはあるが、大部分は路線選定が上手にされていれば避けられたとも言える。

 北海道では襟裳岬から宗谷岬まで、ほぼ南北に蛇紋岩帯がある。したがって、札幌から帯広なり、網走なり東側に抜けようとすればどこかで蛇紋岩地帯を横断することは避けられない。伊豆半島には縦に活断層が走っているので、熱海から沼津に抜けるにはどこかで活断層を横切らざるをえない。つまり日本列島は地質が複雑なのだから、どこを掘っても断層の1 本や2 本はあるのだから、そんなことを気にしていたらトンネルなど掘れはしない。たった1 本のボーリングさえしないで丹那トンネルを掘り始めたような無茶なこと6 )はよくないとしても、多少地質が悪いくらいは土木屋の腕のふるい所なのだから、まあ頑張ってください、という意見もあろう。

 しかし1 本の活断層でもいつも同じ厚さとは限らず、比較的薄いところ、割合固結しているところもある。丹那トンネルや大町T 、六甲T 、中山T で、右に左に何本かの迂回坑を掘って何とか断層を切り抜けたのは、断層帯の比較的薄いところがあり、そこをねらって(実情は下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるで、沢山の)小さな断面の導坑を掘り、そのうちの1 本が何とか断層を通り抜けたからである。そこから奥の掘削工事を進めると共に、水抜きや地山注入などをして本来の位置・大きさのトンネルも掘り抜いた。

 断層の位置を知り、これをなるべく避ける、やむを得ないときはなるべくこれと直交するように路線を選ぶべきというのが現在の方針であるが、今後は更に調査の精度を上げて、断層の薄いところを狙う地質調査も必要ではなかろうか。

図13 伊豆半島と丹那断層位置図

図14 に丹那トンネルの丹那断層部分の迂回坑の様子を示す。ここは東海道線の丹那トンネルでもずい一の難工事個所で、30m 厚さくらいの断層を突破するために21 本、総延長2370m の水抜き坑を掘り、掘削に34 ヵ月もかかった場所です。一番北側(図で手前側)の迂回坑は本線より150m ほど離れている。水抜き坑(迂回坑)はトンネルの左右だけでなく、少しでも水圧の低いところを狙ってトンネル盤より20m 、40m 高いところにも掘った(図に竪坑や上部坑道などと書いてある)。これだけ沢山の迂回坑と、図示してないが切羽から多数のボーリングをしたので、断層の構造がほぼ立体的に分かった。場所により断層破砕帯の厚さが随分違うことが分かった。約25 年後に掘った東海道新幹線の丹那トンネルは旧トンネルより北50m 付近(図14 で西坑門方、坑奥方の矢印がある付近)を通っている。

図14 丹那断層と水抜き迂坑

 

図15 丹那断層の構造・トンネル工事の過程で判明した断層破砕帯の形状の模式図(巨視的な断層の方向に斜交し地表に現れた地割れの方向と一致する。左横ずれ断層に伴うリーデル・シアと考えられる。

  さて、A 地点からB 地点へ鉄道か道路かを通すとき、川を渡る必要があったとする。どのみちどこかで渡る必要があるのだから、何処でもいいやと、A からBへ真っ直ぐに路線を引くでしょうか。やはり川幅、深さ、地盤の状態を調べ慎重に選ぶでしょう。トンネルも同じ事です。熱海から三島へ抜けるためにはどこかで丹那断層を横切るにしても、場所により破砕の程度、幅、湧水量は違うはずです。もし最初から北側迂回坑付近に路線を選べば、丹那トンネルはもう少し楽に工事できたかも知れない、と考えるのは素人の浅はかさでしょうか。済んだことは仕様がないのでしょうか。でも、今後計画される鉄道で、道路で、水路でこれに似た条件の所を通ることはあるはずです。世の中はミクロやナノの寸法が問題になっているのだから、地質調査もせめて数m 単位で断層や地質変化を予言できないものでしょうか。弾性波では地表での断層位置は分かっても、トンネル高さでは何処にあるのか分からない、100m 位予測と実際とがずれることはざらにあるというのでは少し情けない気がします。それとも無理な注文でしょうか。(丹那断層の構造は図15 のようになっているという研究もあります。これだとあまり北に(図15 で上へ)トンネル中心を振ると雁行する次の破砕帯の広いところに当たる事になる。ダムの基礎掘削・大規模な切り取り斜面などでも、断層の幅が場所により変わることがよく見られるので、この雁行する破砕帯の間隔などについてもさらに研究を進める必要があろう)。

 最近のトンネルに関する報告書を見ると、殆どが地質縦断図が描いてあって、それに対してのいろいろな説明があるのが普通であるが、トンネルの中心線は神様が決めてくれた絶対不可侵のものではないはずです。地質担当の皆さん、少年よ大志を抱けです。断層の一番薄いところを予知して、最小の時間、労力でトンネルを掘るために土木屋の先導をするくらいの高い目標を掲げて技術の向上を目指すことが今の地質技術者に求められているのではないでしょうか。

 14.ものは何故壊れるか。

 動かざること大地の如しという言葉もあるが、一方では、地滑りで山が動いたり、地震の時に山腹が崩れたり、盛土が流れて、レールや舗装版だけが宙に浮いていたりする。タンクやサイロ、アパートが傾いたり、橋桁が落ちたりする。大雨で土砂崩れがあったりする。

 昔はよく、台風の後などに山岳道路を走ると「頭上注意」という看板がでていた。汽車の窓から上を見上げると断崖絶壁で、よくもまあ崩れてこないものだと感心したり、心配したりすることも多い。工事中のトンネルや法面はもっと危なそうで、始めてそう言う所に行った人は心が落ち着かない。

 「お化け丁場」というのがあって、土を盛っても盛ってもなかなか土手が高くならず、その内遠くの田圃が盛り上がってきたという話しもある。

 これらの現象は何故起きるのだろうか。何故ものは壊れるのだろうか。

 ものが壊れるのは化学的変化、腐敗、腐食などによる場合もあるが、圧倒的に多いのはその材料の強度以上の力が加わった場合である。そんな、あまり分かり切ったことを述べて釈迦に説法と言われるかも知れないが、地質専門家には(土木屋にも)必ずしも徹底していない。力と関係なしに地質や土質が悪いから崩れる、壊れるといっている人が多い。(最近金属学の入門書を読んでいたら、金属材質のことが詳しく書かれていて、破損例の説明もあるが、やはり外力との関係は殆ど説明されていなかった。専門家になりすぎると何処も似たようなものかと思う)。以下の説明は子供の本をのぞき見るつもりで読んで下さい。

 大規模な工事で、切取り、盛土、トンネルの掘削などをすると、力のかかり方が変わって崩れることがある。大雨の後
で山崩れなどが起こるのは土が水を含んで重くなり、斜面に加わる力が増えるのと、水を含んで土の強度が減るのと両方の原因によると考えられる。

 壊れた原因を調べ、今後の再発を防ぐため地質調査、土や岩石の強度試験、地盤応力の計算が行われたり、従来の災害事例を調べて、法面勾配やトンネル支保の設計基準を決め、設計したりする。

 材料の強度を研究するのは材料強度学、土質力学、岩石力学、力の掛かり具合を研究するのは構造力学や応用力学、弾性学、弾塑性学などと呼ばれ専門家により研究されている。昔は材料力学と呼ばれ、この両方をひとまとめにして勉強したものですが、最近は専門化が進んで、この様にいくつかに分けて研究されています。これはよい点もあるが、力の掛かり方によって強度が変わる、土や岩で言えばゆるんで強度が小さくなったり、締め固まって強度が高くなったりすることもあるので、一緒にした方がよいときもある。

 特にトンネルが壊れる問題は、荷重が何t で、桁の大きさがこれこれで、材料強度が……てな具合に行かない複合した問題があるので、専門化しすぎると何にも分からなくなる。(地質屋と土木屋の節点、つまり業務のバトンタッチは主に地山分類、岩盤等級分類を通じて行われる。ところがこの等級分けからトンネルの支保工を決めるまでの所で、ものは何故壊れるのかが全然考慮されていない、荷重のことが無視されているので、かかる初歩的なことを書いたわけです)

 15.材料の強度

 材料の引張強度はほぼ断面積に比例し、比例率は材質ごとに決まっているらしいことは、昔から知られていた。曲げ強度はこれよりかなり複雑で、四角な梁で言うと、幅に比例し、梁せいの2 乗に比例すると言うことはガリレオにより始めて研究された。ガリレオはさらに同じ量の材料を使うなら、麦藁のように中空管にする方が強いことも研究した。現在では、材料を節約し、自重を軽くして強くするためには中空にしたり、H 形鋼のような形にしている。

 圧縮強度はさらに複雑で、短いときは断面積に比例するが、長い柱では座屈という現象が起きて、長さにも関係し、短い柱に比べるとかなり弱くなる。

 砂の強度は強いようで、弱いようで分かりにくい。引張強度はゼロに近い。盛り上げてもすぐ崩れる。圧縮強度もあま
り大きくはなさそうである。しかしこれを南京袋、土俵などに入れると相当の強度がある。丈夫な袋に入れれば、石のように積み上げて擁壁を造ることだって出来る。アーチ橋を造ることも出来そうである。水だって丈夫で水漏れしない袋に入れて積み上げれば、一寸した擁壁ぐらい作ることが出来る。

 この様な砂の強度を調べるには3 軸試験をする。土俵の代わりに側面からゴム膜を通じて圧力を加えて強度を調べる。
側面から加える圧力(拘束圧力)σ3 と強度σ1 の間にはほぼ次の関係がある。



 ここにc :粘着力、φ:内部摩擦角。
粒がパチンコ玉のように眞ん丸で、表面が滑らかであればφは小さく、凸凹であればφは大きい。C は砂粒の表面にネバネバしたものがあると大きい。側面から加える力σ3 がゼロの時は

分だけの強度しかない。

これが普通に言う一軸圧縮強度である。粘土の方は同じようにして調べるとφがゼロに近い。鉄、鋼もφはゼロに近い。一方、岩石、コンクリート、ガラス、陶器などはφがかなり大きい。砂は地盤の中では強いが、法面やトンネルの表面に出てくると弱い。砂と粘土はどちらが強い、弱いと簡単に言えない。以上の関係はモールの応力円で表すと分かりやすい。土質関係の人にはこれは周知のことですが、岩石を扱う人は何故か一軸圧縮強度だけでいろいろ判断する人が多い。岩石にもc とφはあるのに。

 16.物の壊れ方・脆性と延性、塑性材

物の壊れ方と言って、真っ先に思い出すのはガラスや茶碗などの壊れる様子ではあるまいか。強度がどれだけあるか知らないが、とにかくそれを越える力を掛ければ粉々に砕ける、というのは分かりやすい現象である。しかし手元の針金を曲げてもぽっきりと折れず、素直に曲がる。まあ何回も曲げたり戻したりしているとついには切れてしまうが。粉々に砕
けるか、素直に曲がるかは材料の性質によるが、その他に力のかけ方が早いか遅いか、拘束があるかどうか、温度は低いか高いかにもよる。

 一般に構造材料として鋼材が好んで使われるが、これは強度が大きいだけでなく、強度一杯の力が加わってもすぐに
粉々に壊れず、粘る。人間なら二枚腰とか云う種類である。トンネル工事現場に入った人ならグニャリと曲がった支保工を目にすることも多い。それでもトンネルは大抵崩れてこない。支保工がガラスか陶器で出来ていたらこうはいかない。荷重の予測が一寸でも違って壊れ始めたらもう全くお手上げである。36 計逃げるにしかず、といっても逃げられるものではない。

 地山、岩石の壊れ方にはこの2 種類があり、弱そうだけど粘るのと、強そうだけど壊れ始めると全くだらしなく、正体
もなく壊れるのとある10 ) 。一般的に云うと、砂質土は粉々型、粘質土はネバリ型で岩石にもこの2 種類がある。φ地山、c 地山という呼び方もある18 ) 。

 粉々型と、ネバリ型が地山分類で云う岩石種類、あるいは塊状や層状という分類とどういう関係になるのかは、まだ詳しい研究が少ないようです。

 土や岩石でもう一つ重要なことは、粉々型の地山でも、適切に拘束すると粉々型からネバリ型に変化することです19 ) 。簡単に言うと一軸強度の1/4.4 より大きい拘束圧力を掛けると、ネバリ型(専門用語で云うと延性、これに対し粉々型は脆性という)になるようです。粉々型だと、少しでも強度を超えた力が掛かると一気に壊れて危険極まりないのですが、ネバリ型になると、いろいろ対策を講じたり、最悪の場合でも逃げたり出来
るわけです。

 では、適切な拘束とはどうするかというと、現在切り土補強土工法やトンネルのNATM で用いている工法がこれに当たります。

 参考文献

6)渡辺貫:地質工学、古今書院、1935
10)福島啓一:地山等級分類の改善提案、トンネルと地下、2002.4
16)松田時彦:活断層、岩波新書423
17)トンネル技術者のための応用地質学入門(5 )、トンネルと地下、1999.7
18)トンネル技術者のための応用地質学入門(1 )、トンネルと地下、1999.3 、
17)18)は単行本として出版されている。分かりやすい土木地質学、土木工学社、2000
19)茂木清夫:岩石力学と地震、「地球科学8 」第5 章地震の物理、岩波書店、1978
 

図16 岩石の脆性破壊と延性破壊の区別(各種の岩石の封圧下の圧縮破壊強度(σ1 −σ3 )と封圧(σ2 =σ3 )の関係。1 本の曲線が1種類の岩石に対応している。黒丸は脆性、白丸は延性。半黒丸は中間の挙動を示す。脆性領域と延性領域が破線で分けられる)
目次へ戻る